いじめ問題への緊急提言-教育関係者、国民に向けて
-平成1 8 年1 1 月2 9 日
教育再生会議有識者委員一同
すべての子どもにとって学校は安心、安全で楽しい場所でなければなりません。保護者にとっても、大切な子どもを預ける学校で、子どもの心身が守られ、笑顔で子どもが学校から帰宅することが、何より重要なことです。学校でいじめが起こらないようにすること、いじめが起こった場合に速やかに解消することの第1 次的責任は校長、教頭、教員にあります。さらに、各家庭や地域の一人一人が当事者意識を持ち、いじめを解決していく環境を整える責任を負っています。
教育再生会議有識者委員一同は、いじめを生む素地をつくらず、いじめを受け、苦しんでいる子どもを救い、さらに、いじめによって子どもが命を絶つという痛ましい事件を何としても食い止めるため、学校のみに任せず、教育委員会の関係者、保護者、地域を含むすべての人々が「社会総がかり」で早急に取り組む必要があると考え、美しい国づくりのために、緊急に以下のことを提言します。
①学校は、子どもに対し、いじめは反社会的な行為として絶対許されないことであり、かつ、いじめを見て見ぬふりをする者も加害者であることを徹底して指導する。
~学校に、いじめを訴えやすい場所や仕組みを設けるなどの工夫を
~徹底的に調査を行い、いじめを絶対に許さない姿勢を学校全体に示す~
②学校は、問題を起こす子どもに対して、指導、懲戒の基準を明確にし、毅然とした対応をとる。
~例えば、社会奉仕、個別指導、別教室での教育など、規律を確保するため校内で全教員が一致した対応をとる~
③教員は、いじめられている子どもには、守ってくれる人、その子を必要としている人が必ずいるとの指導を徹底する。日頃から、家庭・地域と連携して、子どもを見守り、子どもと触れ合い、子どもに声をかけ、どんな小さなサインも見逃さないようコミュニケーションを図る。いじめ発生時には、子ども、保護者に、学校がとる解決策を伝える。いじめの問題解決に全力で取り組む中、子どもや保護者が希望する場合には、いじめを理由とする転校も制度として認められていることも周知する。
④教育委員会は、いじめに関わったり、いじめを放置・助長した教員に、懲戒処分を適用する。
~東京都、神奈川県にならい、全国の教育委員会で検討し、教員の責任を明確に~
⑤学校は、いじめがあった場合、事態に応じ、個々の教員のみに委ねるのではなく、校長、教頭、生徒指導担当教員、養護教諭などでチームを作り、学校として解決に当たる。生徒間での話し合いも実施する。教員もクラス・マネジメントを見直し一人一人の子どもとの人間関係を築きなおす。教育委員会も、いじめ解決のサポートチームを結成し、学校を支援する。教育委員会は、学校をサポートするスキルを高める。
⑥学校は、いじめがあった場合、それを隠すことなく、いじめを受けている当事者のプライバシーや二次被害の防止に配慮しつつ、必ず、学校評議員、学校運営協議会、保護者に報告し、家庭や地域と一体となって解決に取り組む。学校と保護者との信頼が重要である。また、問題は小さなうち(泣いていたり、さびしそうにしていたり、けんかをしていたりなど)に芽を摘み、悪化するのを未然に防ぐ。
~いじめが発生するのは悪い学校ではない。いじめを解決するのがいい学校との認識を徹底する。いじめやクラス・マネジメントへの取組みを学校評価、教員評価にも盛り込む。~
⑦いじめを生まない素地を作り、いじめの解決を図るには、家庭の責任も重大である。保護者は、子どもにしっかりと向き合わなければならない。日々の生活の中で、ほめる、励ます、叱るなど、親としての責任を果たす。おじいちゃんやおばあちゃん、地域の人たちも子どもたちに声をかけ、子どもの表情や変化を見逃さず、気づいた点を学校に知らせるなどサポートを積極的に行う。子どもたちには「いじめはいけない」「いじめに負けない」というメッセージを伝えよう。
⑧いじめ問題については、一過性の対応で終わらせず、教育再生会議としてもさらに真剣に取り組むとともに、政府が一丸となって取り組む。
上記の提言を出すに当たり、再生会議では長時間にわたって議論を行いました。それまで根強かった「いじめはいじめられる子にも原因がある」といった意見を、私は犯罪学のエビデンスをもとに「いじめは戦略的暴力であり犯罪である」と徹底主張しましたし、いじめは発生する前の予防的指導や早期介入が必須であることも、江イビデンスベースで説明しました。この提言を受けて、文科省では平成19年にいじめの定義を変えました(だから、その後、いじめの認知件数が一気に増えたのです)。
以下、品川提出資料です。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/goudoubunka/dai2/siryou7.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/goudoubunka/dai2/siryou8.pdf
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai10/siryou4.pdf
私たちが今こそ考えなければいけないのは、かような提言をし、文科省が定義を変え、いじめ予防の推進や早期介入を強く打ち出しても、「それらが遵守されない現場が根強くある」という点です。
●「いじめは戦略的暴力であり、反社会的行動、つまり犯罪」です。このことを学校はいじめが発生する前に全ての児童生徒に徹底指導しなければなりません。
●いじめは犯罪ですから、教師も学校もいじめが起こらない学校経営や学級経営をする義務があります。
●教師や教育委員会が「見て見ぬふりをする」こと、「からかい」とか「ふざけているだけ」と加害者に都合のいいように言い換えることも犯罪的行為だと強く認識すべきです。
●「いじめはやったらダメ」「いじめられたら無視しろ」では、被害者は守れませんし、加害者を生むことも防げません。犯罪学には反社会的行動の予防に効果があると証明されたプログラムがたくさんあります。そういったもの複合的に取り入れることを学校側は早急に検討することが求められています(そのプログラムの一例が上記、官邸に提出した処遇評価研究です)。
●徹底した予防的指導や早期介入、いじめが発生するリスク要因を下げるような学校経営・学級経営をせずに、いじめの加害者だけを登校禁止等にすることは、当該児童生徒への教育権の侵害ですし、問題の解決にはなりません。